嘘つきピエロは息をしていない
***
「いっちゃん-!」
放課後、部室に向かう途中、よく知る顔に出くわした。
「おう、きり。〝一色先輩〟だろ?」
演劇部二年、一色斉は唯一の男子部員だ。
広い肩。大きな背丈。
同じ高校生なのに頼り甲斐のあるお兄さんって感じのいっちゃんは、私のヒーローだ。
「いいでしょ? いっちゃんと私の仲じゃん」
「まーな」
「なかなか新入部員見つからないよー」
「そっか」
「なんでみんな他の部活に入っちゃうかな」
「まぁ、演劇部ってマニアックな部類だよな」
「楽しいのに……!」
「きりは本当に芝居が好きだな」
「ねぇ、またいっちゃんの部屋でやろうよ! お芝居ごっこ」
子供の頃から、よく、いっちゃんの家でお芝居をして遊んだものだ。
二年前はいっちゃんの受験勉強、去年は私の受験勉強があってしばらくやってないなぁ。
「……そうだな」
――あれ?
今、間があったような。
「いっちゃん?」
「ほら、突っ立ってないで行くぞ」
「うん!」
部室を目指し、廊下を歩き進む。
「めぼしいやつ一人もいない?」
「いたら、とっくに声かけてる」
ナイキくんは“持ってる”けど、何を考えてるかわからないし……。
「キャストだけでなく裏方も欲しいところだな。絵を描くのが好きだとか。裁縫が得意とか」
大道具や小道具、ポスターやチラシ、それから衣装を作るときに経験者がいたらすごく助かるもんなぁ。