嘘つきピエロは息をしていない

 微かにささやかれた西条くんの毒を、聞き逃しはしなかった。

 途端に背筋が凍りつく。

「なあ、高橋。ちょっと杉田呼んできてくれないかな」

 男子に声をかけた西条くんは、にこやかに微笑んでいて。


「この子が用あるらしいんだ」


 今しがた私にナイフのような視線を向けていたなんてことには――、誰も気づいていなかった。

 西条くんが「さよなら、吉川さん」と行ってしまう。

 最初にお別れしたときは『またね』だった。

 今の『さよなら』から、強い拒絶を感じずにはいられない。

 どうしよう。

 西条くんのこと、すごく、怒らせてしまった……。

 西条くんと私をチラチラ気にしていた女の子たちが、

「またあの子!?」
「でも西条くん行っちゃったね」
「なんだったんだろう」

 なんて話している。

 数十秒後、私の前に現れたのは――

「拙者になにか用でござるか?」

 ……すごい子、だった。

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