あなたと私と嘘と愛

その日の夜、珍しく坂井さんからの連絡はなかった。
次の日も翌日会う時間の確認をしただけで、LINEもなくそれ以上の話はしなかった。
というより彼から早々と切られてしまったのだ。

そんな態度に少し違和感を感じたけれど、坂井さんだって暇じゃない。
仕事が忙しいのかもしれないと思い、寂しい気持ちはあったが深く考えることはしなかった。


そして当日。私は念入りに化粧と服装を鏡の前でチェックする。

こんな感じかな?と納得して家を出ようとすると、ふいに優斗に見つかった。


「今からデート?」

「そう見えます?」

「今回も気合い入ってる感じだからね」


相変わらず鋭い観察力だ。
(分かってるならわざわざ聞かないでよ)
なんて思いつつ、「そうですか」と一言返す。


「今日は遅くなるから」

「そ、行ってらっしゃい」

「てき、ます」


ぎこちなさいっぱいで玄関を開けた。

挨拶し合うとかどうも調子が狂う。

けど、あの日以優斗は普通に話しかけてくる。
会えば「おはよう」と挨拶をされ、出掛ける祭に顔を合わせれば「行ってらっしゃい」「行ってきます」を何事もなく言ってくる。

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