あなたと私と嘘と愛

「生意気…」

けど母はやっぱりそう言った。優斗を暫く睨んでいたけれど、どこか諦めモードに変わっていく。

「ったく。飼い犬に手を噛まれた気分よ」

「少しは効果ありましたか?飼い犬だっていつも従順だとは限らない。時には反発して噛むことだってありますよ」

「呆れた…」

「これも全てご主人様を思ってのことですから。大切だからこそです」

「物は言いようね。何だか怒る気にもなれないわ」

そう言ってため息混じりに息を吐いた母は疲れたと言わんばかりに目を閉じた。そして見るからに荒くなった呼吸を整えている。

「大丈夫ですか?」

それを見た優斗の顔色が変わる。すぐに心配して歩み寄ろうとしたけれど、母の強い口調がそれを遮った。

「いい、あなたは帰っていいわ」

「…えっ」

その拒否する声に優斗も躊躇い、驚きつつ足を止めた。

「…あなたはもういいわよ。離婚よ。顔も見たくない。こんな裏切り者には用はないわ」

「ちょっ…」

(お母さん…)

散々な言われようだけど、こんな台詞は前にも聞いた。
きついお怒りに私も優斗も顔を見合わせたけど、

「その代わり貴方がきて頂戴、亜香里」
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