あなたと私と嘘と愛
何故かそわそわする態度を向ける彼女に俺の直感が働く。
俺だってそれなりの経験はしてきたわけで、この手の誘い文句は正直初めてじゃない。そもそも彼女には前にも他の理由で一度誘われている。
「…駄目、ですか?」
上目使いでお願いする彼女の頬がほんのり赤いのは果たして演技?それとも恥じらいからくるものなのか。
この業界に顔を出すようになって思ったこと。それは表向きなキラキラとした顔とは裏腹に、裏では沢山の打算が渦を巻いているということ。
「それは今ここでは話せないことなんですか?」
「こ、ここではちょっと、その、できたら別の場所でお願いしたくって…」
必死な彼女のお願いにどうしたものかと考える。以前も断ってる手前ここで行くのは簡単だが、その後の対応を考えると面倒なのが上回る。
「すみませんがこの後は予定が…」
そう言いかけたところで横から予期せぬ邪魔が入る。
「あ、いたいた雫ちゃーん」
俺達を割って飛び込んできた人物に目を配る。と、そこに居たのはまたしても現在売り出し中の若い俳優。
彼は確か某有名俳優の息子で、現在の撮影では主人公の娘の恋人役を演じてるはず。
「あ、貴也君だ。お疲れ様です」
「うん、お疲れー」
「…お疲れ様です」
なるほど…。
チラッとこちらを見る視線に敵意あり。
俺だけに見せる視線はきっと嫉妬で、あからさまな威圧を前にしてまたしても面倒事が増える予感。