月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
既に視界に入っている"碧のオワシス"に向かって、ジャラールさんがスピードをあげる。

それを必死に追いかけるハーキムさん。

「ジャラールさん。私達が見えていないのかな。」

「かもな。」

「言わないの?じゃないと、一人でどんどん行ってしまう。」


だけどハーキムさんは、だんまり。

「やっぱりそう言う事は、主人に言えない?」

「俺とジャラール様の間には、そんな事はないが……ジャラール様の気持ちも分かるからな。」

「ジャラールさんの気持ち?」

「敵の奴等が言ってただろう。ネシャート様が王位を継ぐ事を、皆が望んでいると思ったかと。あれは近臣の中に反対派がいると言う事だ。病に臥せっている今だからこそ、ネシャート様が危ない。」

「だからジャラールさん、急いでいるのね。」


ジャラールさんの気持ちが分かっても、私の心は晴れない。

無意識に、小さくため息が出る。

「辛いか?」

「あっ、いや……」
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