月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
コクっといった時だ。

一瞬見えた砂漠の世界。

恐らく二人は帰路についているはずなのに、なぜか大きな建物の中にいる。

どこ?ここ……


「紅葉!」

光清に起こされて、現実に戻った。

「よかった。また寝たかと思った。」

バスの中で相変わらず光清は、私の隣に座っている。

でもあの場面を見てしまったら、そのまま知らない振りはできない。

「光清。」

「ん?」

「物語の世界が……」

私は頭を押さえた。


「どうした?紅葉。」

心配してくれている光清は、私の顔を覗く。

「今、二人は砂漠の中を、帰っているはずだと思っていたのに……」

「えっ?」

「もう宮殿に帰っているの。」

光清は状況が分からないのに、必死に理解してくれようとしている。

「それは……」

「私がいないのに、物語が進んでいるの。」


光清はバッグの中から、あの物語の本を出し、ペラペラと本を捲り始めた。
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