大天使に聖なる口づけを
(時々、どっちが母親でどっちが娘だかわからなくなるよね……)

小柄な母と抱きあいながらそんなことを思っていた時には、エミリアは実はまだ、事態の深刻さの半分も知らされてはいなかった。

残る重大な半分は、アウレディオが何気なく漏らした次の一言であきらかになる。

「ところで、仮にそれらしき人物を見つけることができたとして……その先はどうするんだ? 天使かどうか確かめる方法なんて、何かあるの?」

ハッとしたように、母はそれまで縋りついていたエミリアの顔をふり仰いだ。

何かを懇願するような憂いを帯びた瞳の煌きに、エミリアは嫌な予感がした。

「ええ、あるわ。人間界で天使は姿を変えているけれど、それを元に戻してしまう方法が一つだけあるの……」

「…………?」
なぜ母はこんなにも自分の顔を見つめるのだろう? 
エミリアが訝しく首を傾げた瞬間、母は意を決したかのように、その方法というのを口にした。

「『聖なる乙女』がキスしたら、天使は元の姿に戻るの。私はもう結婚してしまって『聖なる乙女』じゃなくなったけど、天使の地位と役割は親から子へと受け継がれていくものだから……だから……」
もの言いたげな視線はそのまま、エミリアへと注がれ続ける。
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