大天使に聖なる口づけを
(なによ……私の様子がおかしいって気づいてたんだったら、帰る途中ででも声かけてくれればよかったじゃない……!)

八つ当たり気味の自分勝手な考えだが、そんなことを思っているエミリアの心の奥は、さっきまでとはうって変わって、すっかり晴れていた。

『俺の食べるぶんが減るから』
『お前の取り柄は料理しかないから』

思い返してみればアウレディオの言葉にはずいぶん失礼な内容が含まれているのに、エミリアにとって重要だったのは、どうやらそんなことではなかったらしい。

「お母さんが待ってるから、早く行くよ」
先に立って家までの道を歩きながら、エミリアは時々ふり返って、うしろの無愛想な幼馴染の姿を、何度も何度も確認した。

長い手足を持て余すように、素直に自分のうしろをついてくるアウレディオが、自分の良く知っているアウレディオのままなのが、エミリアは嬉しかった。
何よりも嬉しかった。
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