あの夏に見たあの町で
「ずっと絶縁状態でね、この上のジジイも一応血は繋がってるんだけど」と天井を指差す
「え!?社長?ということは、専務!?失礼致しました」
と今度は青くなって頭を下げる
見ていて面白い子だ...
「気にするな。君も資料を探しに来たんだろ?」
そう言って、資料の選別に戻る
こけしの様な女性社員は「そうでした」と言って、慣れた様子で必要な資料だけを持って「失礼します」と出ていった
と同時に、終始笑いを堪えていた悠貴が吹き出した
「あはははは!あの子面白すぎない?」
相当なツボに入ったらしく、冷静な悠貴にしては珍しく笑い続けている
こいつだけは、俺の生い立ちの全てを知っている
同情するわけでもなく、「朔は朔だから」とそばに居てくれる
そんな普通のことに救われた時もあった
必要な資料全てをスキャンし終えて、専務室に戻ると、就任式の時間が迫っていて隣のホテルに移動を始めた
「明日は高山ありすを連れていくから、悠貴は残ってくれ」
引き継ぎはしてきたけど、俺達がいなくなったばかりのグアムから問い合わせがあった時にすぐに答えられる様に...
ニヤニヤと笑いながら「ヘマすんなよ」と言った悠貴に「うるせ」と呟く
長年一緒にいすぎて、なんでもお見通しかよ