あの夏に見たあの町で
お手洗いから少し離れた壁に腕を組んで背中を預け彼女が出てくるのを待つ
まだ新のことを引き摺りまくっていて、同じ顔を見ると思い出してしまうんだろう
喧嘩したわけでも嫌いになったわけでもなく、ある日突然この世から消えたんだから無理もないか
それなら...俺は新じゃないとわからせる必要がある
いつの間にか俺の中の小さな火は大きく燃え上がっていたようだ
と言うか...お手洗いから出てくるのを待つって...変態か俺は...
なかなか出てこない上に、痴漢呼ばわりされても困るので、会場内に戻ろうかと壁にもたれていた背中を浮かすと同時に彼女が出てきた
顔色はだいぶ戻っていて、足取りも落ち着いていた
「高山ありす」と名前を呼ぶとビクッと肩を上げ足を止めた
振り返り俺に祝いを述べる彼女は俯いていて、一度も俺を見ない
「俺のスピーチの途中で退出とはいい度胸してんな」
俺を見て欲しくて、意地悪なことも言う
顔を上げそうにない彼女との距離を一歩ずつ詰めて行く
僅かに震える彼女は俯いたまま俺との距離を保つように後ずさりながら「申し訳ございません」と小さく謝罪を述べた