あの夏に見たあの町で
違う
違うんだ
謝罪が欲しいんじゃない
壁に追い詰めた彼女の顎を掴み、顔を俺の方へ向ける
下を見ていた目線は宙をさ迷う
「俺を見ろ」
新じゃなく、俺を見てくれ
やっと捕らえたエメラルドの瞳からは大粒の雫が溢れ出す
俺は新じゃない
そう思った次の瞬間には、彼女の唇を奪い味わっていた
新と同じ顔の専務じゃない
俺がオリジナルだ
唇を放す前に彼女の耳に光るエメラルドのイヤリングに手を伸ばした
小粒だけど透き通ったそのエメラルドは彼女の瞳と等しく綺麗だ
キラリと輝く緑色の小さな石に口付けをして、それを握り会場へ戻る
好きな子の大切にしてるものを盗るなんて小学生か...と自嘲して、出てきた扉から中に入ると
ちょうど就任式が終わり、パーティーが始まったところだった
演壇から下りてきた悠貴に「長いよ」と文句を言われ、「悪い」と肩を竦め謝った
さて、面倒な挨拶ラッシュの始まりか...
パーテンションで隔たれた空間から出て、会場前方で来賓に挨拶をしていく