あの夏に見たあの町で
「ええ、中学入学してすぐに朔から難癖をつけられまして、それ以降親友やってます」
難癖...専務ならやりそう...
「あれは独り言だ。お前のせいで俺の自由がなくなるところだったんだからな」
目を細め頬杖をつき、皆から顔を背ける
「ほらね?」と有沢さんが肩を竦め、張本さんと私は思わず笑ってしまった
専務と有沢さんの出会った頃からの話を聞いている内に専務が注文した大量の料理が続々と運び込まれ、あっという間にテーブルが埋め尽くされてしまった
「専務...こんなに食べ切れるんですか?」
私も張本さんもお腹はだいぶ満たされていて、お酒と軽くつまみくらいで充分だ
「余裕だろ」と軽く言いながら、箸を持ち食べ始めた専務を見て違和感を感じた
「専務って左利きなんですね」専務を真似て張本さんが左手で箸を持ち、ぎこちなく動かす真似をする
ああ!そうだ左手で箸を持っているんだ
でも視察の時はホテルでのランチも実家での夕食も右手で食べてたような...
「6歳までは右利きだったけどな。今は仕事の時か食器が右利き用にセッティングされてる時は右手で食べるけど、普段は左」
そう言って、次々と左手に持った箸で料理を口に運ぶ
物凄い速さでテーブルの上のお皿を空にしていく専務と有沢さんは途中、焼酎をボトルで頼み、今度はゆっくりと食べながら物凄い速さでボトルの焼酎が減っていく