イジワル専務の極上な愛し方
それからしばらくして、フルコースで料理が運ばれてきた。社長が注文をしてくれ、贅沢なフレンチをご馳走になる。とても上品な味付けで、今まで味わったことがないくらい。

緊張しながらも、美味しくいただいた。けれどその間、社長は仕事について、翔太さんに質問をすることはあっても、私に話を振ることはない。

時々、翔太さんが私に同意を求めるくらいで、ほとんど会話に入ることはなく、約二時間の社長との時間は終わった。

「それでは社長、今夜は本当にありがとうございました」

ホテルのロビーで社長に頭を下げる。すると、社長は私を見据えた。深い意味はないのかもしれないけれど、視線が鋭く感じられてドキッとしてしまう。

「いいや、構わない。とにかく、仕事のことは成功するように。分かっているな、翔太」

「分かってる。必ず、成功をさせるから」

淡々とした口調の社長に、翔太さんは力強い言葉をかける。すると、社長は頷いてホテルを出ていった。

私たちが、一緒に生活していることも話したけれど、それも反対されることはなかった。思っていた以上に、社長の反応が悪くなく拍子抜けな部分もある。

「社長に、もっと反対されると思っていました」

翔太さんに素直な気持ちを言うと、彼は小さく微笑んだ。

「反対する理由がない。彩奈のどこを、気に入らないって言うんだよ」

「翔太さんってば……」

彼の優しい言葉に、張り詰めていた緊張が徐々に解けていく感じがする。ホテルの玄関前で車の鍵を係の人に渡すと、ほどなくして翔太さんの車が戻ってきた。

そして、私たちはマンションへと帰ったのだけれど、翔太さんがほとんど無言でそれがとても気になった──。
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