春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「どういうことかって訊いてんだよっ…!」


りとが声を荒げたと同時に、姉の背後から黒いスーツを身に纏う男が四人現れた。

その中にいる一人を見て、りとが固まった。刹那、私も諏訪くんも息の仕方を忘れ、その人を凝視した。


「――瑞茄様の言葉通り、ですよ」


よく聞き知った声が、静寂を打ち破る。

その人は長い黒髪をたなびかせながら、笑みを深めて言葉を続けた。


「私が教えて差し上げました」


嘘、噓だ。誰か、嘘だと言ってよ。


「……なに、言ってるの」


本当は、夢なんじゃないの?


「今日、あなた方がここに来ること。それを瑞茄様にお伝えしたのです」


これは、悪い夢なのではないの…?


「…嘘」


雫のように落とされた、りとの弱々しい声を消すかのように。


「嘘ではありません。真実だから、今ここに瑞茄様がいらっしゃるのですよ、璃叶」


その人――紫さんは、冷笑を浮かべながら答えた。


「紫さんっ…どういうことだよ!?」


顔を歪めたりとは、大股で紫さんへと詰め寄りその胸倉を掴んだ。

紫さんは顔色一つ変えずに、口を閉ざしたままりとを見下ろしている。
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