春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
バランスを崩した姉の元へと、彼女の背後にいた男たちがサッと顔色を変えて此方に詰め寄ってくる。

りとは姉の胸倉を掴み上げ、唇を震わせながら睨むような目で見つめていた。

その両目からは、今も涙がこぼれている。


「冷徹で、非情っ…?ふざけんな!!紫さんのことをなんにも知らないくせにっ…」


姉が言っていることは間違いだ。その想いが、痛いほど伝わってくる。

私もそう叫びたい。

紫さんは優しい人だ。
声が出なくてもいいのだと言ってくれた。
心ない言葉を浴びせてくる母から私を守り、温かいご飯と寝る場所をくれた。
たくさんのものをくれた、優しい人だ。

私はそう信じて――


「――やめなさい、璃叶」


どこからか、ガラスが割れる音が聞こえた気がした。

原形をとどめることなく、粉々に砕け散る。そんな音が。


「足掻いたところで、何も変わりはしません」


どこまでも澄んでいて、やさしくて、心地よい声だったのに。

それは幻だったのだと思わざるを得ないくらいに、冷たいものへと変わってしまった声が、現実から希望を奪う。
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