春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
彼が今身に纏っているのは、他校の制服でもなく私服だ。ジャケットもシャツもズボンも、全てが黒い。
そのせいか、彼の端正な顔立ちや雪のように白い肌がよく引き立っていた。
春のような柔い雰囲気を晒し出しているというのに、黒一色の姿をしているなんて。あなたの方こそ、変な人だと思う。
私は思い切って口を開いてみた。
「――…どうしてあなたはいつも、こんな場所にひとりでいるんですか?ここの生徒じゃないでしょう?」
彼は小さく笑うと、逸らしていた瞳を私の方へと向けた。
どこか寂しさを秘めたような、綺麗な琥珀色だった。
「さぁ、どうしてだろう?俺自身もよくわからないんだ」
「わからないのにいるんですか?」
「うん。…変な人だなって思う?」
私は堪らなくなって笑った。
彼はやっぱり変な人だった。
冷たい人なのかと思ったけれど、そうでもないみたい。
「いいえ、思いません」
噓です。本当は思っていたけれど、あなたが笑ってくれたから、つい吐いてしまったの。
「…そっか」
柔らかそうな黒髪が、風でふんわりと揺れた。