春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「いつもここにいるから。いつも一人で、ここから街の景色を見ながら、寂しそうな顔をしているから…」
言い終えて、私は余計なことまで言ってしまったことに気がつき、さっと血の気が引いた。
「………」
彼は目を見開いて、私を凝視していた。
それはそうだ。いつもこの場所に来ていることを知っていることはともかく、その様子を見られていたのだ。いい気はしないだろう。
「あの、」
「…なに?」
でも、寂しそうにしていたのは紛れもない事実だ。
彼が今日を最後に、ここに来ることはもう二度とないのだということも。
「明日、ここに来てもいいですか?」
彼は少しだけ笑った。
「…お好きにどうぞ。別にここは俺の場所じゃないから、許可を求める必要はないよ」
明日、彼はここに来ない。
そう言われたわけではない。けれど、彼の唇以外の全てがそう言っているのだ。
今日が最後だ、と。
「じゃあ、好きにしますね。私は古織柚羽と言います。あなたの名前は何ですか?」
「俺は――――」