春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(知らなくちゃいけないことだと思ったから)」


「…知らない方がいいこともあるでしょ」


確かに、そうかもしれない。

知ろうとしていることが途轍もなく哀しくて辛いことだったら、知らないままでいた方がよかったと嘆くかもしれない。


「(…それでも、知りたいの。紗羅さんや神苑の人たちに酷いことをしてしまっていたら、謝りたいから)」


謝って済む問題じゃなかったらどうしよう、と思ったけれど。

悲しそうに微笑んだりとを目の前にして、これ以上は何も言えなかった。


やっぱり、りとは何か知っているみたいだ。

私に関する重要なことを知っている。

だから、私がそれに近づこうとすると、遠ざけるために冷たい言葉を放っているのだ。


「…馬鹿だよ、アンタ。何も知らずにいた方が、あの人も―――…」


「―――お待たせ柚羽!…って、どうして篠宮が居るのよ」


購買から戻ってきた聡美が、自身の定位置にりとが座っていることに驚き、素っ頓狂な声を上げた。
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