春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
りとは私にしか分からないくらいの小さなため息をこぼすと、徐に席を立ち上がった。

言いかけた言葉の続きが気になったが、彼はクラスメイトだ。

いつだって訊ける。


「柚羽、大丈夫?何もされてない?」


聡美はりとを押し退けると、物凄い形相でそう訊いてきた。

神苑とやらの一員でもないのに、警戒心が半端ないのは何故だろうか。


「……安心して。ただ話してただけだから」


「話してた?…篠宮と柚羽が?どうして?」


怒っている聡美と、無表情のりと。

何がどうして今に至っているのか忘れそうになったが、大方私の所為だ。

聡美は他のクラスメイトから冷遇されている私を気にかけ、心無いものたちから守ろうとしてくれている。

そんな彼女以外の人間と関わりを持っていない私が、男子生徒と一緒にいたから驚いたのだろう。


「アンタには関係ないね」


りとはそう言い捨て、教室を出て行った。


「…嫌な奴」


頬を膨らませた聡美を見て、私は笑った。
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