クール彼氏とツンデレ彼女
でも、楓真は何も言わない。
なんだ、この気まずい感じの空気は。
「じゃ、楓真君。私はほかのやつ見てくるから、紗知の服持ってきてね」
気まずいというのに、お姉ちゃんは須藤君を連れて、商品を見に行ってしまった。
さて、どうしたものか。
「紗知」
楓真に名前を呼ばれて、私は背中を向けた。
「似合ってるよ」
耳元でささやかれた。
楓真の視線から逃げたはずなのに、鏡越しに目が合ってしまった。
それ以上は耐えられなくて、私は素早くカーテンを閉めた。
なに、今の!
ていうか、最近の楓真、なんか変!
あんなふうに甘い声で囁くなんてことしてなかった!
「心臓もたないって……」
ため息をつきながら、ネックレスを外す。
服を着替え終えると、鏡を見て髪を整える。
そして商品を持って試着室を出ようとカーテンに手を伸ばしたとき。
「楓真くん?」
明るいような、落ち着いた女の人の声が聞こえて来た。
私はカーテンの中で耳を澄ます。
「久しぶりだね。元気だった?」
聞こえてくるのは女の人の声だけで、楓真が何を言っているのかわからない。