突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「日菜子さん、ですね」

「は、はい。……はじめまして……」

 まつ毛の長い目をきゅっと細めて笑う彼が、私を捉えていた。つい観察していた私は、驚いて上擦った声を上げる。

 ふと辺りを見渡すと、祖父に連れられ、奥座敷へと向かう彼のおじい様やご両親の後ろ姿が見えた。この人とふたり置いてけぼりにされたことに気づき、自分の顔がみるみる緊張してくるのがわかる。

 まぁ、笑った顔を見る限りでも怖い人ではなさそうだし、ひとまずはよかったのかも。

 そんなことを思っていると、笑顔の彼の眉が、一瞬、片方ピクリとつり上がった。しかし、気にする暇もなく、ふっと小さく笑みを零すのが聞こえてくる。

 なに、今の。

 不可思議な行動に違和感を感じたが、私は半歩後ろへ下がり、再び深く頭を垂らした。

「あの、こんなことになってしまい本当にすみませんでした。姉のことは……」

「――別にかまわない。どっちでも一緒だからな」

 先ほどよりも低くなった声に言葉を遮られる。

 ん? なに、今の。聞き違い? 幻聴? でも、たしかに……。

 自分の足袋を凝視したまま、混乱した頭の中を必死に整理しようとした。しかし、片付く前に、その声の主によってさらに追い打ちをかけられる。
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