突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「用意は、終わった?」

 声を掛けられ、ハッとした。

「はい、一応は」

「じゃあ、これをいただいたら行こう。もう遅い」

「はい」と返すと、彼はふくよかな香りが立つ湯呑に口をつけた。


 玄関で清仁と真紘に見送られ、彼のあとを追って駐車場へとやって来る。

 スーツだとなお目立つ長い脚は、来客用スペースに停められた黒い車の前で止まった。

 この車、コマーシャルでも見たことがある。国産のSUV車だ。たしか、何度かモデルチェンジは行っているけど、二十年以上愛されている車種だと言っていたような気がする。

「先に乗ってろ」

 ドアを開け、私を先に助手席へと乗せた彼はスーツケース持ってトランクの方へ行く。積み終えると、彼も遅れて乗り込んできた。

「ありがとうございます」と会釈する。彼は前を向いたまま「あぁ」とつぶやいた。

 部屋にいたときはわからなかったが、男性らしい爽やかな香りが鼻腔を擽(くすぐ)る。整髪料らしいほのかに甘さも相まって、充満する匂いに目眩がしそうになった。
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