突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「本当に、犬みたいなやつだな。まるで忠犬。ほら、お手」

 手のひらを差し出され、私は眉根を寄せてそれを軽く払いのけた。

「犬は賢いから、あなたには獰猛(どうもう)よ」

 威嚇のまねごとをしてから、警告する。

「噛むなよ」

「あなた次第ね」

 吐き捨てると、彼はさらに片方の口角をつり上げ、鼻を鳴らした。

「調教しがいのある犬だな」

 そのひと言に一瞬密かな恐怖を覚えるが、悟られないように虚勢を張る。

「おい、いつまでも遊んでないで早く食え。さっさと風呂に入って寝るぞ。明日も早い」

 一方的に言った彼は、食事を再開する。しかし、私は、その言葉の言い回しになんだか違和感を覚えた。次の瞬間、ある疑惑が閃光のように頭を掠める。

「……ねぇ、あなたの部屋はどこなの?」

 嫌な予感が背筋を冷たく流れた。

「はっ? なに言ってんだ。ここに決まってるだろ」

 彼は、呆れたように眉を顰める。

「な、なんで同じ部屋なのよ!!」

「左の手前のドアが書斎で、奥が寝室だ」

 狼狽(ろうばい)する私をよそに、彼は素知らぬ顔で説明を続けた。最後の単語に、足先から悪寒が駆け上ってくる。
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