突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
大理石の浴槽に身を沈めた。熱めのお湯に入ると、疲れが溶け出すように滲み出てくる。自然と恍惚(こうこつ)とした吐息が溢れるが、いまいち陶酔しきれないのは、ここから出たあとになにが待っているかをわかっているからだ。
「いいから先に入って来い」とおおよそ詰め込まれるようにして入りはしたけど……。
へりに顎を乗せ、辺りを見渡す。
壁まで真っ白の大理石。田の字に並んだ小窓は間接照明になっているらしく、天井にある浴室灯とは別に淡い光が差し込んでいた。
悔しいけれど、清潔感もあって素敵な空間ね。
いっそこのままここに閉じこもってしまおうかなんて考えもしたが、倒れて発見されるのを想像し、身震いする。意を決し、お湯から上がった。
「お先にいただきました……」
身なりを整え、脱衣所から部屋へと戻る。ソファーの背もたれから覗く後頭部に声を掛けると、彼は「あぁ」とこちらを振り返った。視線がぶつかる。彼は、無表情のままなにも言わない。
な、なに? ただのフード付きのワンピースパジャマなんだけど。固まるほど変?
足首まである見慣れたそれを、もう一度辿るように見返した。けれど、特段おかしいところはないと思う。