突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「お前、そうやって警戒心強いクセに、変なところで隙があるからな」

「隙? そんなのないわよ」

「本当に?」

 彼は口もとに手を当て、小首を傾げる。さらに反論しようと大きく息を吸い込んだそのときだった。突然視界が激しく揺れ、身体が浮き上がる。短い叫び声を上げたが、それは次に訪れた感触に意識を奪われ尻すぼみに消えていった。

 頬に冷たい雫が落ちてくる。反対に、背中と太ももからは力強い温かさが伝わってきた。

 涼し気な眼差しが、こちらを見下ろしている。

「ほら、こうやって、内側に踏み込まれると動けない」

 そう言って、彼は愉快そうに顔を歪めた。

 ようやくなにが起こったのかを理解して、私は頬がみるみる紅潮するのを感じた。

「ちょっと! なにするのよ!」

 私を抱きかかえる腕の中で、身をよじって暴れる。押し返そうにも、彼が素肌のままだったことを思い出して……。服越しでも伝わってくる風呂上がりの高めの体温が、私を途方もなくいたたまれなくさせた。
< 52 / 128 >

この作品をシェア

pagetop