突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「では、向かいましょうか」

「はい……」と返すと、彼がドアを開けてくれた後部座席に乗り込む。いざ意識すると、ボロが出てしまわないように振る舞いひとつが気になって、私はシートに背中もつけずに座っていた。窓の外を眺めてはいるが、景色などなにも頭には入ってこない。

「日菜子様、寒くありませんか?」

 声を掛けられ、顔を車の進行方向へ向けた。ルームミラー越しに視線がぶつかり、思わずぐっと息を詰まらせる。

「ちょうどいいです。あと、私のことは様付けしないで普通に呼んでください。私にまでそんなかしこまらなくて大丈夫です。城田さんが来てくださって助かりました。ひとりだったら、朝から道に迷って遅刻していたかもしれないので。本当にありがとうございます」

「……そうですか……。では、日菜子さんとお呼びさせていただきます。ですが、この話し方は私の癖のようなものなので、お気になさらないでください」

 一瞬考えるように閉口していた彼が言った。相変わらず無表情のままだが、不思議と恐怖などは感じない。口調もそうだが、声も柔らかいせいだろうか。

「わかりました」

 微かに笑みを零して答えると、彼はミラーから視線を外した。
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