突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします

 仕事が終わり、二十階建てのビルから出る。陽はすでに落ちかけていたが、わずかに残ったオレンジが解放感を助長させてくれた。

 私は本社のホテル事業統括部、営業企画課に所属している。全社にまたがるイベント、販売活動などを企画、運営するのが主な仕事で、一か月ほど前からは、夏休みに行う予定のキャンペーン企画のプロジェクトチームに参加していた。それもあって最近はとても忙しく、定時に帰れたのは久しぶりかもしれない。

 オフィス街でなければ、鼻歌でも歌いたいほど嬉しかった。心地良さに頬が緩むのを堪える。駅に向かおうとふと視線を流すと、見覚えのある人物がこちらを見つめていた。

「……創!?」

 驚愕し、悲鳴のような声を上げた。私たちの間を歩いていた人たちが、訝しげな眼差しを向けている。我に返り、勢い良く口もとを覆った。

「終わったのか?」

 低く、力強い声がする。仕事が終わったばかりなのか、彼は朝見たときと同じスーツ姿だった。固まったままの私に痺れを切らしたらしく、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「おい、なに突っ立ってんだよ」

 眉を顰めた顔に覗き込まれ、ようやく意識が戻ってきた。身じろぎ、急いで距離を取る。

 ……幻じゃないんだ。
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