突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「……この前は、悪かった」

 彼が消え入りそうな声でつぶやく。私は一瞬面食らった顔になるが、それはすぐに溢れ出した笑顔に攫われた。

「……助けてくれてありがとう」

 彼も穏やかな表情になる。

「遅くなって悪かった」

 大きな手が、私の頭を撫でた。胸がひと際大きく跳ねる。

 遅くなったなんて言っているけど、恰好を見る限り今仕事から帰ってきたところだと思う。あの騒ぎを見て、あの人だかりの中を掻き分け助けに来てくれたんだよね……。

 温かさに打たれ、向かい合う彼のシャツをそっと握った。

「部屋に戻ろう」

 気恥ずかしさに、目を伏せたままつぶやく。

 たった一瞬の沈黙が怖い。断られたらどうしよう。そう思ったが、言葉が先に口から出ていた。創の顔を見る勇気がない。いつからこんなに意気地なしになったんだろう。

「あぁ、そうだな」

 跳ねるように顔を上げた。彼は、ふっと笑みを零している。それを見て、心が晴れやかに躍った。

 嬉しい。素直にそう思った。
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