俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
桐原は眉根を寄せ、俺をまっすぐ見つめる。


「それは確かな情報なんですか?」

「あぁ、店名も親父さんの苗字も合っていたから間違いない」


リオンについて調べ上げ、店主は紅川という名前だと知っていた。麗の口からその名が出たとき、受け入れたくない気持ちで一杯だったが、これは現実。運命のいたずらというものは残酷だ。

同じく信じられないという様子の桐原は、硬い表情で口元に手を当てる。


「まさかそんなことが……。でも、これで納得しました。あなたがなぜ別れを選んだのか」

「別れたってのは少し違うんだ。俺は肝心な言葉を伝えてなかったから、付き合ってたとも言い難い」


麗を一方的に突き放した、あのときに初めて気づいた。“好きだ”と、きちんと声にしていなかったことに。

俺はこれまで、そういう言葉を使うほど強く想える相手に出会ったことがない。告白されて、なんとなく付き合ってみる交際しかしてこなかったものだから、自分から告白するという経験がなかった。

過去のそれと麗は確実に違うのに、愛していると伝えた気になっていた自分に呆れる。今となっては、伝えなくてよかったとも思うが。
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