異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。


 明朝、月光十字軍とミグナフタ国の兵はエヴィテオールに向けて出立した。目的地までは野営で休息をとりつつ、何事もなければ約二週間で辿り着く。

 私たちは一週間かけて中間地点までやってきたのだが、そこで待ち受けていたエヴィテオール軍の偵察隊と遭遇し、そのまま交戦となった。

 わずか三十の偵察隊に対して連合軍である私たちは二万二十。兵力さもあったのであっという間に制圧に成功し、現在は野営をして身を休めている。

 私は怪我人の処置のために兵の幕舎を回っていたのだが、幸いにも連合軍側の負傷者は数名で擦り傷程度の軽症。被害が少なかったことに安堵しながら救護幕舎の方に歩いていると、野営地の中央に縄に縛られたエヴィテオールの兵を発見した。
 連合軍の見張りが囲むように立っており、遠目から見ても敵兵は重症で中には出血が多いためか意識を失っている者もいた。
 持っていた薬箱を抱え直した私は迷わず彼らの元へ歩き出す。もちろん、敵兵の手当をするためだ。

「お前らのせいで仲間が何人も死んだんだ」

 突然、ミグナフタ国の兵が捕虜の兵を蹴り飛ばす。
──なんてひどいことを!

 私は敵兵に駆け寄り、ミグナフタ兵の前に立ち塞がった。
 このことを報告しなければと思うが、シェイドはアスナさんやローズさん、ダガロフさんたちとともに幕舎で軍議に参加している。ここは私がなんとかするしかないと、真っ向から兵を見据えた。

「なにをしているんですか」

「こいつらは我が軍の兵を何人殺した? それを考えれば、これくらい当然の報いだろう」

「当然って……私達だって、彼らの仲間を手にかけたはずです」

戦争にどちらが悪もない。私は戦争とは無縁の場所で生きてきたから偉そうなことは言えないけれど、客観的な意見として言わせてもらえば命を奪った時点で同罪だ。

所詮、裏方の私には理解できないと突っぱねられればそれまでなのだが、無闇に敵兵だからと傷つけて欲しくなかった。

 とは言っても実際に戦の前線にいたのは兵だ。彼らにしかわからない葛藤があるのだとは思う。実際、私を庇ってミトさんが亡くなったときは敵兵に憎悪さえわいた。だからその気持ちに共感できないわけではないので複雑な心境でいると、ミグナフタの兵はバツが悪そうな顔をしながら反論してくる。

「そ、それはそうだが……。我らは正当な使命を掲げ、剣を振るっている」

 すると「そうだ、そうだ」と便乗してミグナフタの兵が次々と声を上げる。

< 130 / 176 >

この作品をシェア

pagetop