異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「目的のためなら身内さえ容赦なく殺して王になろうとする。あのニドルフ王子の下で戦う奴らなど生きている価値はない」

「そんな……」

 瀕死の彼らを手にかけることが正義だと正当化していいのだろうか。やっていることはニドルフ王子となんら変わりないではないか。

 背に庇ったエヴィテオールの兵はいつ殺されるのかと身を震わせている。彼らにだって守るべき妻や子供がいて帰る場所もあるだろう。生きている人間の命を敵だからという漠然な理由で奪っていいはずがない。

 そう言い返そうとしたとき、鋭い一声が飛んでくる。 

「その通りだ! 俺たちは正義を以てこいつらを討つ。情けなど無用、こいつらだって戦に出た時点で覚悟していたはずだ」

 現れたのはミグナフタの軍神とも呼ばれる齢三十三のエドモンド・オルター軍事司令官。

 彼は肩に引っ掛けた深紫の軍服の上着を靡かせ、クリーム色のワイシャツと縦じまが入ったグリーンのベスト、上着と同色のネクタイにズボンを身に着けた姿で私の前にやってくる。

 ミグナフタの国境戦でも指揮を執っていたらしいのだが、私は治療室に籠っていてお目にかかれなかった。

 此度のエヴィテオール奪還戦で、ミグナフタ軍の統率を行っている。

「一介の治療師ふぜいが、戦場も知らぬくせに生意気な口を叩くな」 

 アッシュがかったベージュの髪を掻き上げ、据わったヴァイオレットの瞳を私に向けてくるエドモンド軍事司令官。綺麗な顔立ちがなお、きつい表情に見えて体が竦む。

 しかし上官が武器も握れない人間を打つことを正しいと言っているうちは、兵も考えを改められないだろう。

 たとえ生意気だと罵られようとも、ここで止めなければ一生後悔すると思った私はエドモンド軍事司令官を毅然と見上げた。

「丸腰の相手に斬りかかることが正義ですか。もう一度言います。目的のために傷ついた彼らを殺すのが正義だと、胸を張って言えますか?」

「なにが言いたい」

 彼は片眉を持ち上げて、獲物を狙う獰猛類の如く鋭い眼差しで問い返してくる。

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