異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「お前の捻じ曲がった性格は、どうしたら更生できるんだろうな。見ていて嘆かわしく思うよ」

 本当に、やめてほしい。喧嘩するならここでない場所でやってくれと思うのは、手当てしている兵たちが慄いているからだ。心拍数が上がると出血が止まりにくくなるのに、と業を煮やして私は叱り飛ばす。

「いい加減にしてください! 無意味な口論を続けるくらいなら、手当てを手伝ってもらいますよ!」

 一国の王子と軍事司令官に対して目を据える私に、ふたりは呆気にとられた様子で「はい」と声を揃えた。


 雲の上の身分である彼らに啖呵を切った数時間後、ようやくエヴィテオール兵の手当てが終わった。

「信じられねぇ」

 エドモンド軍事司令官が地べたに腰を下ろして後ろに手をつき、散々こき使った私をぐったりとした顔で恨みがましく見つめてきた。

 私はさすがに悪かったなと、頭を下げて謝る。

「すみません。近くにいたので、つい」

「この俺をボロ雑巾になるまで使うとか、すげぇ度胸だよ。恐れ入ったわ」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇよ」

 一刀両断され、彼はフンッと鼻を鳴らすと夜空を仰ぐ。 

 そこへ炊事場から水を取りに行っていたシェイドが戻ってくる。私の隣に腰を下ろして、両手に持っていた水筒のひとつをに差し出してきた。

「ありがとう、シェイド」

「どういたしまして。こっちはエドモンドの分」

 水筒を渡されたエドモンド軍事司令官は「どうも」と短く答えて、水を飲む。私はシェイドの分がないのに気づいて自分の水筒の蓋を開けると彼に返した。

「人のことばかり優先して、ちゃんと水分補給しないとだめよ」

「いやいや、その言葉はそっくりそのまま返させてもらう。自分のことを後回しにするのはあなたのほうだ」

 苦笑するシェイドは私の顎にてをかけて唇に水筒の口をあててくる。不意を突かれた彼の行動に目を剥いた。

「え、なにをしてるの」

「ほら、飲ませてあげるから」

 問答無用で水筒を傾けたシェイド。口内に流れ込んできた水をなんとか飲み込むと乾いた喉が潤い、自分が思っている以上に水分を欲していたことに気づく。

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