異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「自分で飲めたのに……」
腕が使えないならまだしも、健康である自分が水を飲ませてもらうというのは恥ずかしすぎる。
赤くなっているだろう顔を隠すように俯くと、可笑しそうに笑いながらシェイドに頭を撫でられた。
「無理やりにでも飲ませないと、あのまま水筒の譲り合いが永遠と続いてただろ。若菜は頑固なところがあるからな」
年下に子供扱いされるのは、やはり落ち着かない。姉弟、いとこの中でも私が年長で職場でも教育係を任されることが多かった私はどちらかといえば世話を焼く側だ。なので逆の立場に慣れない。
でも、決して嫌ではなかった。羞恥心に全身が焼け焦げてしまいそうではあるが、与えられる安心感が心地いい。
「シェイドは私の扱いに手慣れているわよね」
「あなたのことに関しては誰よりも詳しい自信がある」
「そ、そうなの……」
爽やかに大胆発言をかましてくる彼には永遠に敵う気がしない。もし彼と夫婦になったら、意外と手玉に取られそうだ。
現に私は彼の仕草や言動に一喜一憂して翻弄されている。他人を優先するのは性分みたいなものなので、シェイドの言った通り彼が飲むまで私は水筒に口をつけることはなかったと思う。それを見抜いて強引に甘やかされた私はなぜか敗北した気分で水筒に口をつける彼を眺める。
というか、私が口をつけた水筒なのにシェイドは平気で飲んでいたわね。こんなことを気にして小学生かと自分に突っ込みたくなる。
さっきから頭の中が彼のことでパンクしそうだったので、私は「救護幕舎の様子を見てきます」と思いつきの用事を作って立ち上がる。
「なら、俺も一緒に――」
シェイドが言いかけている間に、私は競歩でその場から離れる。背中越しに「振られたな」とからかうエドモンド軍事司令官の声を聞きながら顔から湯気が出そうだった。
その夜、私はエヴィテオール兵の様子を確認するために寝泊まりしている幕舎を出て野営地の中央に向かっていた。
その途中で「若菜さん」と声をかけられる。振り返るとなぜか、見張られているはずのエヴィテオール兵のひとりが立っていた。