異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「どうしてここに?」
平然と佇む彼に一瞬思考が停止する。その隙を突かれ、私は首の後ろに手刀を打ち込まれてしまい意識を失った。
どれほど眠っていたのか、うなじに鈍い痛みを感じながら目を開ける。すると私は山小屋のような場所で後ろ手に縄で縛られたまま床に転がされていた。
さっきまで野営地にいたはずなのに、ここはどこ?
混乱する頭で必死に考えを巡らせると、意識を失う前に監視下にあったエヴィテオール兵が私に声をかけてきたのを思い出した。
信じたくないけれど、まさかと嫌な予感が胸を掠める。そしてそれを立証するように、私の目の前には手当したエヴィテオール兵が立っていた。野営地では鎧を身に着けていたはずなのだが、今は黒装束を纏っている。
この姿には見覚えがあった。疫病騒ぎのときに窓から城に侵入してきた刺客と同じ恰好をしている。
見た目は二十代後半くらいだろう。ハネが強い癖のある橙の長髪を後頭部の高い位置でまとめた彼はカーネリアンの目を小馬鹿にしたように細める。
「平和ボケしたあんたを攫うのは簡単だったな」
「あなたは何者なの?」
「俺はアージェ、エヴィテオールに雇われてる隠密。そんで、あんたを攫いにきた敵」
軽い調子で自己紹介をする彼はあっさり「敵」と断言した。悪びれもせずに攫いに来たなどと要件を告げるなんて掴みどころがない人だ。
探るようにアージェを観察していたら、口元に嘲笑がまざまざと浮かび上がる。
「正義の味方気取りで助けた人間に裏切られる気分はどう? 偽善者って虫唾が走るほど嫌いなんだよね、俺」
飄々とした態度の中に隠れた悪意を目の当たりにして肩が跳ね上がる。剥き出しの刃物が常に背筋に当たっているようで動悸がした。
「声も出せないくらいショックだった? あんたには同情するけど、危機感がないから簡単に誘拐されちゃうんだよ」
目の前まで歩いてきて床にしゃがみ込むと、アージェは楽しそうに横たわっている私の顎を掴む。
「明日の朝、あんたをニドルフ王子のところへ連れていく。それまでいい子で待ってるんだよ、若菜さん?」
ひらひらと手を振って小屋を出ていくアージェ。部屋に残された私は彼の言う通り、警戒心が足りなかったと唇を噛む。
平然と佇む彼に一瞬思考が停止する。その隙を突かれ、私は首の後ろに手刀を打ち込まれてしまい意識を失った。
どれほど眠っていたのか、うなじに鈍い痛みを感じながら目を開ける。すると私は山小屋のような場所で後ろ手に縄で縛られたまま床に転がされていた。
さっきまで野営地にいたはずなのに、ここはどこ?
混乱する頭で必死に考えを巡らせると、意識を失う前に監視下にあったエヴィテオール兵が私に声をかけてきたのを思い出した。
信じたくないけれど、まさかと嫌な予感が胸を掠める。そしてそれを立証するように、私の目の前には手当したエヴィテオール兵が立っていた。野営地では鎧を身に着けていたはずなのだが、今は黒装束を纏っている。
この姿には見覚えがあった。疫病騒ぎのときに窓から城に侵入してきた刺客と同じ恰好をしている。
見た目は二十代後半くらいだろう。ハネが強い癖のある橙の長髪を後頭部の高い位置でまとめた彼はカーネリアンの目を小馬鹿にしたように細める。
「平和ボケしたあんたを攫うのは簡単だったな」
「あなたは何者なの?」
「俺はアージェ、エヴィテオールに雇われてる隠密。そんで、あんたを攫いにきた敵」
軽い調子で自己紹介をする彼はあっさり「敵」と断言した。悪びれもせずに攫いに来たなどと要件を告げるなんて掴みどころがない人だ。
探るようにアージェを観察していたら、口元に嘲笑がまざまざと浮かび上がる。
「正義の味方気取りで助けた人間に裏切られる気分はどう? 偽善者って虫唾が走るほど嫌いなんだよね、俺」
飄々とした態度の中に隠れた悪意を目の当たりにして肩が跳ね上がる。剥き出しの刃物が常に背筋に当たっているようで動悸がした。
「声も出せないくらいショックだった? あんたには同情するけど、危機感がないから簡単に誘拐されちゃうんだよ」
目の前まで歩いてきて床にしゃがみ込むと、アージェは楽しそうに横たわっている私の顎を掴む。
「明日の朝、あんたをニドルフ王子のところへ連れていく。それまでいい子で待ってるんだよ、若菜さん?」
ひらひらと手を振って小屋を出ていくアージェ。部屋に残された私は彼の言う通り、警戒心が足りなかったと唇を噛む。