異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「感謝……す、る……」

 湊くんの最後の言葉と、シェイド様の言葉が重なった。安堵するように瞼を閉じた彼を見つめ、次々と頭に浮かぶ最悪の結末を「大丈夫」と口にすることで払拭する。

「王子は誰よりも前線で剣を振るっていましたから、あちこちに矢傷を受けて体勢を崩したところを斬られたのです」

 斬られたって、剣にってことよね。

 シェイド様を運んできた男性はその時の光景がフラッシュバックしているのか、頭を抱えている。王子の身体を確認すると、胸元から腹部にかけて縦に斬られた痕があった。

「大丈夫、あなたは自分の身体を労わってください」

 王子の服を脱がせながら、私は男性を安心させるように声をかけた。正直言って大丈夫とは言えない状況だが、彼の心の傷が少しでも癒やせればと思ったのだ。

「止血しましょう。ありったけの布と水を持ってきてください!」

 治療師たちは「はい!」と返事をすると一斉に動き出す。私は届いた布を当てて止血をしたのだが、傷の範囲が大きくておさえきれない。

「手伝います」

 それに気づいたマルクが布を当ててくれたのだが、私は首を横に振る。

「今は治療師の手が足りないわ、あなたは他の兵の手当てをして。こっちは軽症で動ける兵の手を借ります」

「若菜さん、ですが怪我人に手伝わせるのは……」

「でも、あなたが抜けることで救える負傷兵の数は減るのよ」

 迷っているマルクの答えは待たずに、私は誰か動ける人間はいないかと視線を巡らせる。すると「俺がやろう」と言って、アスナさんが布の上から王子の傷をおさえた。

「アスナさん、ありがとうございます。この幕舎の中では、あなたが適任ですね」

 彼は自分の怪我よりも王子を優先して、ここに来てくれた。その忠誠心に感銘を受けながら、私は自分にできることに集中する。止血はアスナさんのおかげで問題なくでき、傷口を洗浄して布を巻くところまで手伝ってくれた。

「今できるのはここまでです。傷口の発赤や熱感、腫脹などの感染兆候に気をつけてあげてください」

 アスナさんにシェイド様のことを頼み、私は他の負傷兵の処置にあたる。

 外の怒号や銃声が止んだのは、空に月が昇る頃だった。


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