異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「おーい! 王子、若菜ちゃーん」

 呼び止められてシェイドと足を止めれば、訓練場の地面に胡坐をかいているアスナさんが陽気な顔で手を振っているのを発見する。私たちは自然と足をそちらに向け、訓練場の中へと足を踏み入れた。

 そこは天井がないために空が見える石造りの円形の広場だった。中央には馬に跨る騎士が月光十字軍の旗を持っている黄金の像が立っており、その周りで騎士やエクスワイヤが剣を交えている。

 広場を挟んで向こう側にあるのは騎士の宿舎で、私も手当てのために度々訪れていた。

「さっきぶりだな、シェイド」

 鞘に納められたロングソードを肩に立て掛けるようにして持ちながら、ローズさんとこちらに歩いてくるのはエドモンド軍事司令官だった。

 ということは彼も今夜の復興祭に参加するのだろう。客人であるはずなのだが、どうしてこのような場所にいるのかと首を傾げているとエドモンド軍事司令官かちらりと私に視線を寄越す。

「お前もいたのか、女。ちっこくて見えなかったぞ」

 相変わらず口が悪い上に失礼な人だ。顔を引き攣らせて「お久しぶりです」とお辞儀をすると、彼はつまらなそうにフンッと鼻を鳴らす。

「威勢が足りないな、俺に啖呵を切っていたお前はどこにいった」

「あれは状況が状況だったので……いつもカリカリしているわけではありません」

「俺はお前の男気を買ってるんだ、失望させんなよ」

 これは喜んでいいのだろうか。一応女性なのだけれど、エドモンド軍事司令官は間違いなく『男気』と言った。期待してくれているみたいなのだが、あまり嬉しくないので曖昧に笑っているとローズさんがげんなりとした顔をする。

「エドモンド軍事司令官の理想の女性って強いか否かが判断基準なのよね。若菜ほど図太い女なんて滅多にいないんだから、その結婚観を変えない限り身を固めるのはずっと先になるわよ」 

 図太い女……。

 新手のいじめかと思うくらい言葉のナイフが容赦なく胸に刺さる。女性らしさが足りないのだろうかとがっくりと肩を落とす私に、シェイドが困ったように笑ってひとつ息をついた。

「若菜は人気者だな。見る者を惹きつけるその魅力は俺を不安にさせる」

「それって、どういう……」

 どういう意味かと最後まで問えなかったのは、向けられる眼差しの熱さに私のほうが惹きつけられてしまったからだ。

 ここには他にも人がいるというのに、彼以外視界に入らない。世界の音も遠のいて、彼の言葉だけがスッと耳に入ってくる。

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