異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「誰にも奪われたくないって意味なんだけど、俺に言わせるなんてずるいな」

「――なっ、にを……」

 彼の視線、言葉ひとつで息苦しいほど腎臓が脈打つ。本当にずるいのはどっちだと怒りたい気分だ。

 完全に思考回路が壊れた私は彼から目を離せないまま、赤くなっているだろう顔を隠すのも忘れて金魚のように口の開閉を繰り返す。固まっていたらエドモンド軍事司令官に「おい女」と、なんともぞんざいに呼ばれた。でも、おかげで我に返った私はシェイドから視線を逸らすことに成功する。そこでようやく息がつけた私はエドモンド軍事司令官に向き直る。

「な、なんでしょうか」

「一番理性があるふうに振る舞ってる男ほど危険だぞ」

 話の流れからするに、エドモンド軍事司令官はシェイドのことを言っている。だが、シェイドに限って私を傷つけることはしないだろう。好意を寄せられているのはわかっているが、彼が私に触れるのはずべて私のためだったから。

「若菜に余計な情報を吹き込むの、やめてくれないか」

 仲裁役のシェイドが珍しくエドモンド軍事司令官に突っかかる。睨み合っているふたりを新鮮な気持ちで眺めていたら、ふいに後ろから伸びてきた腕が首に回った。

「あんたさ、シェイド王子どこまで進んでるわけ?」

 耳元で囁かれたと思ったら、そのまま引き寄せられる。後ろから抱き締められるような格好になり振り向くと、犯人はローズさんであることがわかった。

 彼――彼女はいわゆるオカマなので、ふっと身体から力が抜ける。身体の造りは違えど、心は同性なのでひと安心した。

「それに関しては黙秘します」

 言っといてなんだが、黙秘権って異世界にもあるのだろうか。早々に頭を捻ったが、この際どうでもいい。

「それ、俺も知りたいな。ねぇねぇ、口づけはした? もしくはそれ以上――」

 勝手に盛り上がるアスナさんの頭頂部にローズさんの手刀が落ちる。

「下品な男ね」

「痛いじゃないか、ローズ~」

「それで、既成事実くらいは作れたのかしら」

 アスナさんを無視して徹底的に追及する気のローズさん。彼の言っていることもアスナさんと大差変わりないと思うのだが気のせいだろうか。

「これはアスナさんの勘からするに、ふたりはなにもしてないわけじゃないけど確定的ななにかには至ってないってところだな」

 すべてが抽象的だが、アスナさんは核心を突いている。ドキリとした私はボロが出る前に退散することにした。

「そろそろ、アージェのリハビリの時間なので失礼します」

 さっき行ってきたばかりなのだが、咄嗟にこれしか理由が思い当たらなかった。利用してごめんなさい、と心の中でアージェに謝りながら私はそそくさと訓練場から退散した。

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