異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「兄上、話は聞かせてもらった。あなたの苦悩も理解できないわけではないが、すべては嘆くばかりで自分に打ち勝てなかった弱さが招いたことだろう」

「いいや、シェイド……すべてはお前が狂わせた」

 ニドルフ王子は腰の剣を抜き、私の首筋に押し当てる。その瞬間、シェイドの瞳が怒りに燃え上がる。人を殺せてしまうのではないかと危惧するほどの気迫でサーベルを抜き放ち、疾風の如くニドルフ王子に詰め寄る。その剣先は突くように標的を狙ったが、ニドルフ王子はそれを自身の得物で弾いて後ろに飛びのいた。

「残念、もう少し彼女を使ってお前で遊びたかったのに」

 シェイドの重い突きが響いたのか、ニドルフ王子は剣を握る手の甲を擦っている。

「若菜に傷ひとつでも負わせれば、俺は兄上だろうと斬るぞ」

 私の前に立つシェイドが、知らない人のように見えて不安に駆られる。

 憎悪に支配されるシェイドの姿を見たニドルフ王子は、下卑た笑みを浮かべて満足そうにしていた。

「お前も俺と同じところまで堕ちてくればいい。いくら偽善を口上で並べたところで、目的のために身内を手にかけられる俺と本質は変わらないんだからな」

 ――違う。王宮奪還のときにニドルフ王子に斬りかかったシェイドは、ちゃんと踏みとどまった。その憎しみも乗り越えて大事なものを見失わなかったのだ。

「お前は俺を殺したくて仕方ないはずだ。半分しか繋がっていなくても血は争えないな」

 こんなところで血縁であることを持ち出してくるなんて卑怯だ。

 シェイドは「俺は違う……」と言いながらも、本当にそうなのかと自問自答しているようだった。それがもどかしくて、私は拳を握り締めるとシェイドの背に向かって声をかける。

「どんなに憎んでいても、心の奥底では実のお兄さんを大切に思ってる。だからシェイドは憎みたいのに憎みきれなくて、迷ってる」

 私の言葉の意味を図りかねているのか、シェイドはこちらを振り向いてわずかに首を傾げる。揺れる彼の瞳を安心させるように見つめ返すと、静かに語りかける。

「その胸の内にある怒りも悲しみも愛情もすべて本物。それを否定する必要はないと思う。ただ、王として義弟として後悔しない道を選んで」

 すぐに返事は返ってこなかった。下を向いて無言で葛藤している様子のシェイドを急かすことなく待つ。その様子をニドルフ王子もじっと面白そうに眺めていた。

 しばらくして、シェイドは凛然と顔を上げる。いつもの輝きを取り戻した琥珀の目を見たら、なんとなく聞く前から答えがわかった。

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