異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「穢れのない、濡れ羽色の瞳をしているんだな。俺はこの目を見たから、命を預けようと思えた」
「そう、でしたか……」
「それで、謙虚で誠実なあなたの名前を俺も呼びたいと思っているんだが……。いつになったら、お聞かせ願えるのだろうか」
冗談を含んだ彼の言葉に、私は顔を綻ばせる。
「すっかり忘れていて、申し訳ありません。私は水瀬若菜といいます」
「若菜か、聞きなれない名だ。異国の者か?」
「異国といえば、そうなるのかもしれませんが……」
国どころか、私の見解が正しければ世界さえ違う。だた、その結論に至った私ですら信じられないことを彼に話したところでなんになる。敗戦軍として追われる心労に追い打ちをかけるように、病み上がりのシェイド様を混乱させるのだけは嫌だった。
「煮え切らない言い方だな。よければ思っていることをそのまま聞かせてほしい」
「シェイド様……わかりました」
彼は私を謙虚で誠実だと言ったけれど、たぶんそれはシェイド様も同じだ。この澄んだ琥珀の瞳に見つめられたら、隠し事などできるわけがない。信じてもらうことは難しいだろうが、私はここではない世界で医療に携わる仕事をしていたこと、突然異世界に飛ばされたときのことをかいつまんで話した。
シェイド様は無言で私の話に耳を傾けているが、夢物語を聞かせられている感覚だろう。それでもいい、こうして言葉にしていくと改めて自分の状況を整理することができたから。
「――というわけなので、私はこの世界の人間ではないのです」
「なるほど、それでは心細かっただろう」
「え……」
頬に触れていた手は、そのまま私の背中に回る。片手で引き寄せられると、私は軽く膝立ちになって彼の肩に顎を乗せるような格好になった。
今まで男性経験が全くないわけではないが、後輩が出来てからというもの仕事の後処理が増えて残業は当たり前。プライベートに使える時間は極限に減り、気づけば独り身生活が七年目に突入しようとしていた。なので男性に触れられるのは久々で、三十にもなって高校生のように顔が火照ってしまう。
「お、お体に障りますよ。あなたは胸から腹部にかけて、傷があるのですから」
うるさいくらいに激しく鳴っている動悸が、彼に伝わってしまわないように身体を離そうとした。しかし、逃がさないとばかりにシェイド様の両腕が私の背中と腰をさらに引き寄せる。
「そう、でしたか……」
「それで、謙虚で誠実なあなたの名前を俺も呼びたいと思っているんだが……。いつになったら、お聞かせ願えるのだろうか」
冗談を含んだ彼の言葉に、私は顔を綻ばせる。
「すっかり忘れていて、申し訳ありません。私は水瀬若菜といいます」
「若菜か、聞きなれない名だ。異国の者か?」
「異国といえば、そうなるのかもしれませんが……」
国どころか、私の見解が正しければ世界さえ違う。だた、その結論に至った私ですら信じられないことを彼に話したところでなんになる。敗戦軍として追われる心労に追い打ちをかけるように、病み上がりのシェイド様を混乱させるのだけは嫌だった。
「煮え切らない言い方だな。よければ思っていることをそのまま聞かせてほしい」
「シェイド様……わかりました」
彼は私を謙虚で誠実だと言ったけれど、たぶんそれはシェイド様も同じだ。この澄んだ琥珀の瞳に見つめられたら、隠し事などできるわけがない。信じてもらうことは難しいだろうが、私はここではない世界で医療に携わる仕事をしていたこと、突然異世界に飛ばされたときのことをかいつまんで話した。
シェイド様は無言で私の話に耳を傾けているが、夢物語を聞かせられている感覚だろう。それでもいい、こうして言葉にしていくと改めて自分の状況を整理することができたから。
「――というわけなので、私はこの世界の人間ではないのです」
「なるほど、それでは心細かっただろう」
「え……」
頬に触れていた手は、そのまま私の背中に回る。片手で引き寄せられると、私は軽く膝立ちになって彼の肩に顎を乗せるような格好になった。
今まで男性経験が全くないわけではないが、後輩が出来てからというもの仕事の後処理が増えて残業は当たり前。プライベートに使える時間は極限に減り、気づけば独り身生活が七年目に突入しようとしていた。なので男性に触れられるのは久々で、三十にもなって高校生のように顔が火照ってしまう。
「お、お体に障りますよ。あなたは胸から腹部にかけて、傷があるのですから」
うるさいくらいに激しく鳴っている動悸が、彼に伝わってしまわないように身体を離そうとした。しかし、逃がさないとばかりにシェイド様の両腕が私の背中と腰をさらに引き寄せる。