異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「草むらを歩いてたら、蛇に噛まれたんだ」

 目に涙を浮かべながら、男の子は私の顔を見上げる。私は安心させるように笑いかけて傷の具合を見た。

 受傷部局所の腫脹でおさまっているので、重症度は低い。噛まれてから時間が立っていなければ、入った毒の半分は絞り出せるだろう。

 私は自分の髪ゴムを外して男の子の右足に通すと、牙痕より上で二重に留める。蛇の毒は表皮に近いリンパに沿って中枢側に回るので、軽く縛る必要があるのだ。

「井戸の水を汲んで、傷口にかけ続けてもらえますか」

 近くにいた村人に頼むと「わかった!」と言って、汲んだ井戸水をかけてくれる。私は傷口に入った毒を絞り出し、中を洗浄した。

「ごめんね、痛いと思うけど頑張って」

 顔を歪める男の子を励ましていると、心配して来てくれたのだろうマルクが人をかき分けてやってくる。

「若菜さん、大丈夫ですか!」

「マルク、この子蛇に噛まれたみたい。解毒薬は作れる?」

「蛇毒にはウマノスズクサが効きます。内服すると人体には有害ですが、根を粉末にして外用するといいんです」

 マルクは肩からかけていた茶色いポーチの中を漁り、粉末の入った小瓶を取り出すと、蓋を開けて男の子の傷口に薬を塗り込んだ。

「勉強になるわ」

 私は彼の薬学の知識と手技を記憶に刻むように見届けて、薬を塗り終えた傷口に清潔な布を当てがう。

「いいえ、数日で負傷者の病状を軽快させた若菜さんの知識や技術には叶いません。改めて、僕たちを助けてくれてありがとうございます」

 頭を下げてくるマルクに私は首を横に振る。

「それはお互い様よ。私の知らないことをマルクたちは知ってる。それにどれだけ助けられてきたか」

「若菜さんの謙虚なところも、尊敬してます」

 目を輝かせるマルクに、私は苦笑いする。そこまで慕われるようなことはしていないはずなのだけれど、ここにいる治療師の皆は私を頼ってくれる。それがありがたくもあり、ますます医療者としての知識や技術を磨かなくてはと気が引き締まる思いだった。

「それで治療師さん、うちの息子は大丈夫なのかい?」

「これから六時間は腫れが広まってこないか、経過観察します。足首は毒が回らないように心臓より低い位置に下げておいてください。それから、この黒いゴム……紐は一時間くらいで外してくださいね」

 真っ青な顔で尋ねてくる子供のお父さんに説明をする。

 外用薬は一、二時間で皮膚に吸収されて効果を表すので、緊縛を解くのは解毒剤が効いてきてからのほうが安全だ。縛ってるとはいっても皮下静脈を圧迫する程度なので重大な血流障害を起こすこともない。

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