異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「本当に、よく頑張ったわね」

 男の子の頭を撫でてやると、嬉しそうに口角を上げる。それを見た村人たちもホッと息をついて顔を見合わせると「心配させやがって」と笑い声がわいた。

「賑やかだな、なにがあったんだ?」

 騒ぎを聞きつけたのか、シェイド様がアスナさんとローズさんを引き連れてこちらにやってくる。

「この純白の天使様に息子を救ってもらったんです。なんとお礼を言っていいやら」

 まさか、天使って私のこと? 

 男の子のお父さんが私に向かって拝み始めると、他の村人たちも便乗して手を合わせてくる。

 大げさだ、地蔵にでもなった気分で居心地が悪いったらない。 

「若菜は負傷した兵や治療師の間でも、戦場の天使と呼ばれているからな。あなたにぴったりの尊称だと思うが」

 悪びれもせずに民衆を煽るシェイド様は心からの称賛をくださっているのだろうけれど、今はあまり嬉しくない。おかげさまで「天使様!」という呼びかけの嵐が白熱しだした。

「王子は俗に言う天然、というやつなのでしょうか」

 微笑みを浮かべながら村人たちと談笑をするシェイド様の横顔を盗み見ながら、控えていたアスナさんとローズさんに尋ねる。

「若菜ちゃんには王子がそんなふうに見えるの?」

 地面に座ったままの私の前に、アスナさんがしゃがみ込む。立てた膝に頬杖をついて、どこか楽しげにそう聞いてきた。

 質問の真意は図れないけれど、シェイド様のイメージを思いついたまま語ることにする。

「純粋で優しくて素直……な、好青年でしょうか」 

「ぶぶぶっ、見事に騙されてるね」

 カラカラと笑って意味ありげにアメジストの目を細めるアスナさんに、なぜだか胸が騒ぐ。

 この数週間のうちに、シェイド様と接する機会はいくらかあった。なので少しではあるが、彼のことを理解できていると思っていたのだけれど、私の知らない顔がまだあるのだろうか。 

「あら、王子が純粋で優しくて好青年なのは事実でしょう。ただ、あんたのイメージは美化されすぎ」

 中腰になったローズさんが、また私の額を人差し指で押す。

 ふたりの言い方ではまるで、シェイド様が腹黒いみたいに聞こえる。私を守ると言ってくださった彼が、意地の悪い人間には思えない。とはいえ、シェイド様と付き合いが長いふたりの言葉を違うと突っぱねられる根拠はどこにもないのだが。

 
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