異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「若菜、髪留めはどうしたんだ」
頭上から声がかかって、ローズさんの後ろを見やる。そこには村人との話がひと段落ついたのか、シェイド様がいた。
「しょ、処置のために使ってしまいまして……」
断りなく彼のことを話題にしていた手前、気まずさがあった私は答え方がぎこちなくなってしまう。当の本人は気にした素振りもなく、私の髪をひと房掬った。
「女性は入り用な物が多いだろうに、満足な着替えも装飾品も用意してやれず、すまない」
憂いの表情で掬った私の髪を親指でさするシェイド様に、やっぱり腹黒いだなんて嘘だと確信する。
シェイド様は旅の途中でも私の体調を気遣い、何度も「大丈夫か」と声をかけてくれた。この月光十字軍に女性が私だけだからかもしれないが、彼の存在が励みになっていたのは事実。私より若いというのに、人間ができている。
「シェイド様、そんなこと気になさらないでください。それにそのような物を買うお金があるのなら、今は負傷した兵や治療師たちに栄養のある料理を食べさせてあげたいです」
彼らに必要なのは免疫をつけるためにも、十分な食事と睡眠をとることだ。けれど、休めるのは一晩だけ。食料も移動中に底を尽きて、常に空腹感と戦っている。このような状態で病に勝てなどと、それはあまりにも酷な話だ。
「人は世の中の汚いものを瞳に映していくと穢れるものだが……。あなたの心はどうして、純白を保っていられるんだ」
「シェイド様は私のことをかいかぶりすぎです。他者を助けるのは、いつだって自分のためでした。目の前で失われていく命を見殺しにする罪悪感に耐えられないだけです」
患者を救いたいという思いの裏にある本音。だから助けられなかったとき、助けたくても処置をすることが許されないとき、私は自分が大罪人のように思える。あの身を引き裂かれるような痛みを味わいたくないから、私は必死にこぼれ落ちていく命を救おうとしているのだ。
「あなたがなんと言おうと、失われていく命に傷つく若菜の心は綺麗だ」
少しも迷うことなく、シェイド様は言う。
髪に触れていた大きな手が私の頭に乗り、腰を屈めたシェイド様と至近距離で目が合った。穏やかな琥珀の煌きに、私の心は抗えない引力に捕まってしまったかのように惹かれてしまう。
頭上から声がかかって、ローズさんの後ろを見やる。そこには村人との話がひと段落ついたのか、シェイド様がいた。
「しょ、処置のために使ってしまいまして……」
断りなく彼のことを話題にしていた手前、気まずさがあった私は答え方がぎこちなくなってしまう。当の本人は気にした素振りもなく、私の髪をひと房掬った。
「女性は入り用な物が多いだろうに、満足な着替えも装飾品も用意してやれず、すまない」
憂いの表情で掬った私の髪を親指でさするシェイド様に、やっぱり腹黒いだなんて嘘だと確信する。
シェイド様は旅の途中でも私の体調を気遣い、何度も「大丈夫か」と声をかけてくれた。この月光十字軍に女性が私だけだからかもしれないが、彼の存在が励みになっていたのは事実。私より若いというのに、人間ができている。
「シェイド様、そんなこと気になさらないでください。それにそのような物を買うお金があるのなら、今は負傷した兵や治療師たちに栄養のある料理を食べさせてあげたいです」
彼らに必要なのは免疫をつけるためにも、十分な食事と睡眠をとることだ。けれど、休めるのは一晩だけ。食料も移動中に底を尽きて、常に空腹感と戦っている。このような状態で病に勝てなどと、それはあまりにも酷な話だ。
「人は世の中の汚いものを瞳に映していくと穢れるものだが……。あなたの心はどうして、純白を保っていられるんだ」
「シェイド様は私のことをかいかぶりすぎです。他者を助けるのは、いつだって自分のためでした。目の前で失われていく命を見殺しにする罪悪感に耐えられないだけです」
患者を救いたいという思いの裏にある本音。だから助けられなかったとき、助けたくても処置をすることが許されないとき、私は自分が大罪人のように思える。あの身を引き裂かれるような痛みを味わいたくないから、私は必死にこぼれ落ちていく命を救おうとしているのだ。
「あなたがなんと言おうと、失われていく命に傷つく若菜の心は綺麗だ」
少しも迷うことなく、シェイド様は言う。
髪に触れていた大きな手が私の頭に乗り、腰を屈めたシェイド様と至近距離で目が合った。穏やかな琥珀の煌きに、私の心は抗えない引力に捕まってしまったかのように惹かれてしまう。