異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「もし、無事に隣国に渡ることができたら、そのときは若菜をうんと着飾ることにしよう」

「シェイド様、失礼ながら“もし”では困ります。絶対に、皆で隣国に渡るんです。なので、その約束は必ず叶えてください」

 正直、着飾ってもらわなくても構わない。けれど、ただ約束がほしかった。もし、だなんて弱気なものではなく、そのために死ねないと強く思えるような生きる理由が。

 面食らっているシェイド様はすぐに私の言わんとすることを察したのか、前髪を掻き上げると参ったというように眉尻を下げて笑う。

「若菜はいつも、俺より一枚上手だな」

「ふふふっ、たぶんあなたより年長者ですから」

 口元に手を当てて、私は込み上げてくる笑いに肩を震わせる。そんな私の顔をじっと見つめて、シェイド様は柔らかな瞳を細めた。

「若菜、女性にこのようなことを聞くのは失礼だと思うが、年はいくつだ」

「私は三十ですよ」

「ならば、たった五つの差だ」

 なんの問題もないというふうに、シェイド様は軽くサラッと言ってのける。

 ということは、彼は二十五歳ということになる。簡単に五つの差だ、なんて言ってくれるけれど、アラサーにもなるとひとつ歳をとるのにも敏感になるのだ。私にとっては“たった”ではなく、“五つも”年下だ。

 この不可逆的な変化を食い止める方法はないというのに、懲りずに年は取りたくないと考えてしまうのは女性の永遠のテーマだからだろう。

 布団を頭からすっぽり被ってふて寝したい気分になっているところに、「あのう」と村人がおずおずと声をかけてくる。

「息子を助けてくれたお礼に、皆さんの食事を用意させてください。それくらいしかできず、恐縮ではありますが……」

 村人たちはすでに鍋や食材を持ち寄り、外で炊飯の準備を始めている。

 食材だって、この村の荒れ具合を見れば豊富でないことは確かだ。それなのに大事な食料を私たちのために使おうとしてくれている。それに目頭が熱くなり、胸に込み上げてくるものを感じながら村人を見上げる。

「それくらい、なんかじゃありません。十分すぎるくらいありがたいです。お礼だなんて、お釣りが返ってくるくらいですよ」

 声を震わせながら感謝を伝えると、笑顔で頭を下げる。

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