異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「ミトさんの足の怪我はだいぶ塞がってきましたし、禁酒を約束してくださるなら、参加してもいいですよ」

 塞がったとは言っても最初の手当の後、すぐに戦に復帰して剣を振るい、逃げるために夜通しでここまで歩いてきたのだ。何度も傷口が開いては閉じてを繰り返していて、完全に癒えてはいない。なので、傷口が開いて大出血を誘因するお酒は厳禁だ。

「わかりましたって、若菜さん。じゃあ、行ってもいいですか?」

「えぇ、肩を貸しますね」

 私はミトさんの体を支えながら、マルクや他の治療師に負傷者たちを任せて建物を出る。宴会が開かれている広場にやってくると、中央には焚き火を囲んで赤々と顔を染める村人や兵士たちの笑い声にあふれていて、この場にいるだけでも愉快な気持ちになった。

「こうして、仲間が笑ってるのを見るのは久しぶりだな」

 私の肩に手を回しているミトさんが、涙交じりの声でしみじみと呟く。私は泣いているだろう彼の顔は見ずに、焚き火へ視線を固定した。

「俺、別に兵になって昇進したいとか、そういうのはなくて。ただ仲間ともう一度酒を飲み交わせるように、生きて守って戦い抜くんだって……」

「それがミトさんの戦う理由なんですね」

「単純すぎて呆れるでしょう?」

 自嘲的な言い方をする彼の横顔を見上げて、私は首を横に振る。

「いいえ、些細な幸せほど守る価値があると私は思います。あなたにとってそれが大事なものなのなら、なおさら」

 私は彼を仲間の兵たちの元へ連れていき、近くの頑丈そうな木箱の上に腰かけさせる。

 ミトさんは人気者らしく、「待ってたぞ」「いつまで床に臥せってるつもりだよ」と矢継ぎ早に声をかけられて、すぐに兵たちに囲まれた。

「若菜さんも、飲みましょうよ」

 私もお酒を勧められたのだが、丁重にお断りをした。負傷した兵や治療師たちの病状が急変したときに酔っぱらっていたら、まともな仕事ができないからだ。

「皆さんも、お酒はほどほどになさってくださいね」

 一応、医療者として注意をしておくと、なぜか皆は上機嫌に「はーい」とお酒の入った杯を持ち上げた。本当にわかっているのかと苦笑いしながら、私は静かにその場を離れる。

「何事もないといいけれど……」

 負傷者たちが休んでいる建物までの暗い道をひとりで歩きながら、ぼんやりと考えるのは先の戦で見てきた惨状だ。

 今日まで怒涛に時間が過ぎていったので思い返す暇もなかったけれど、死と隣り合わせの戦場はやはり恐ろしかった。あの硝煙に霞む空も銃声や悲鳴も血や火薬の匂いも、全てが鮮明に脳裏にこびりついて離れない。

 私は月光の下で足を止めると、カタカタと小刻みに震える自分の手のひらを見つめる。

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