異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「私はまた、失うの?」

 湊くんを看取ったときのように、冷たくなっていく手を黙って見守らなければならない日が来るのかと思うと堪らなく恐ろしい。

 気を抜くと湊くんの笑顔や最後の言葉が蘇って、涙腺が緩むから困る。

 人の死を看取った数は覚えていないほどあるというのに、心が鋼のように強くならないのはなぜなのだろうと何度も思う。なにも感じずにいられれば楽なのにとも思う反面、この悲しみという感情を失ったら、私は看護師どころか人ではなくなってしまう気がする。

「このような暗がりにひとりで、どうしたんだ」

 ふいに背中に声がかかり、私は振り返る。そこには私の他にもうひとり、月光の下に佇む長身で凛々しい顔をした男性がいた。

「シェイド様こそ、宴に参加されていたはずでは?」

「宴の場から離れるあなたの姿が見えて、追いかけてきたんだ」

 目の前まで歩いてきたシェイド様は、私の顔を見て眉間にしわを寄せた。

「心配事か?」

 この人は鋭い。笑顔や言葉で繕っても、気づいてしまうのだろう。偽ることは無意味と悟った私は、肩をすくめて素直に話すことにした。

「今日、言葉を交わした人が明日にはこの世界からいなくなっている。そんな嫌な想像をしてしまって、怖くなってしまったのです」

 せっかくの宴の日にしんみりしたことは言いたくはないのだが、自分ひとりで抱えるには限界が近かった。

 気持ちが沈むのに比例して俯くと伸びてきた手が顎にかかり、強制的に上向かせられる。

 優しくはあるが、逃がさないとばかりにしっかりと顔は固定され、情けない顔をシェイド様に晒す羽目になってしまった。

「若菜が帰り道を見つけるその日まで、俺は全身全霊で守ると言ったはずだ」

「え、えぇ……そう言ってくれましたね」

「それはあなたの心も含めて、という意味だ。心細くなったら遠慮なく、この胸に飛び込んできてくれて構わない」

 年下だというのに、こうも安心感を覚えるのはなぜだろうか。素直に頷いてしまう私は、そんなことばかりを永遠と考える。

「俺は王子である前に、あなたの剣であり盾だからな」

 顎を持ち上げていないほうの手が、頬にかかる私の黒髪を耳にかける。そのまま前髪を上げられ、シェイド様の精悍で意志の強そうな顔が近づいてきた。

 彼の吐息が前髪の生え際をくすぐり、激しく心臓が鼓動する。恥ずかしくていたたまれない私は今にも逃げ出したくてしょうがないはずなのに、見えない毒に身体を支配されてしまったかのように痺れて動けない。

 やがて柔らかな感触が押しつけられ、額に口づけられたと理解した途端、発火しているのではないかと錯覚するほど顔が熱くなる。

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