異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「見張りの兵からの連絡、ニドルフ王子の追手が村から五キロ地点まで迫ってるって。宴に参加していた兵は広場で待機させてあるよ」

 アスナさんの報告を受けたシェイド様は取り乱しはしなかったが苦い顔をした。

 それもそのはず、月光十字軍の兵は負傷している者がほとんどなのだ。ろくに休息もとれずにこの村を出なければならないとなると、負傷者の病状の悪化は避けられない。だが、ここに留まれば反逆の罪で処刑されるのは目に見えているので、私たちに残された道はひとつしかなかった。

「五キロ地点か、山道であっても一時間で追いつかれるな。すぐにここを発つ、準備を終えたら広場に集まるように皆に声をかけてくれ」

 即座に指示を出すと、アスナさんは「了解」と言って負傷兵たちが休んでいる空き家の方向へ駆けていく。それを見送ることなくシェイド様は私を振り返り、ポンッと頭に手を乗せてきた。

「また、無理をさせることになる。すまないな」

 申し訳なさそうに笑って、彼は広場に向かって踵を返す。

 こうしてつかの間の休息は終わり、私たちは村を発つための準備に取りかかっていたのだが、事態は深刻なほうへとどんどん転がっていく。

 
「まずいことになったわ」

 出立の準備を終えて広場にやってくると、村の入り口で張り込んでいたローズさんが厳しい顔つきで戻ってくる。

「見張りが見たのは後方部隊だったのよ。ダガロフ・アルバート率いる少数精鋭の部隊が見張りの目をかいくぐって、もうそこまで来てる」

「ダガロフ騎士団長はニドルフ王子の忠臣だもんね。あの人が相手なら、ここは俺が残るよ。でないと皆、全滅するでしょ」

 アスナさんはいつもの調子を崩さずに腰に差した剣の柄頭に手をかけて、シェイド様の前に一歩出る。その後ろでアスナさんが隊長を務める月光十字軍の第二部隊の兵たちが一斉に跪いた。 

「いいのか? お前もローズもダガロフ騎士団長の下で剣術を磨いていたはず。このような王位争いさえなければ、王宮騎士団として共に国を守るために歩んでいた仲間だ」 

 覚悟のほどを確認するように、シェイド様はアスナさんの目を見据える。それは迷いがあれば、確実に死ぬことを見越しての言葉のように聞こえた。

 目指すものが、仕える主君が違ったがためにかつての仲間と闘わなければならないなんて、迷うなというほうが無理な話だ。なのに、アスナさんは変わらず笑みを口元にたたえていた。

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