異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「俺はシェイド様を守るためにここにいるんです。俺が迷えば、あなたに危険が及ぶでしょう。騎士はいついかなるときも正義を守るもの。そんで俺にとっては、あなたが正義だ」 

 どうして、そこまで信念を貫けるのか。アスナさんの言葉からは、たとえ相手が恩師であろうと主のために敵前から退却することはないという淀みない意志が窺えた。

「……その忠誠心に敬意を払って、ここで敵を引きつける役目を与える。このシェイド・エヴィテオールの盾となれ」

 苦渋の決断だったことは見ている私にもわかった。シェイド様は平静を装ってはいるが、眉間に寄せられたしわや唇の歪みから苦しみが滲み出ていたから。

「安心しなよ、ちゃんと王子のところに帰るからさ」

 村の入り口に向かって歩き出すアスナさんが王子の横を通るときにそう言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。

 ローズさんとすれ違うとき、ふたりは無言で拳をぶつけ合う。言葉はなかったけれど、お互いが絶対の信頼を置いている相手だということはわかった。

 こうして私たちはアスナさんたちを置いて、村人に見送られながらこの場を離れた。

 この地域は山が多いらしく、私たちはまたもや険しい道のりを進むこととなったのだ。

「あ、あれは……」

 山の頂上にやってきたとき、隣を歩いていたマルクが後ろを振り返って青ざめた顔をした。その視線を辿ると、一時間前まで滞在していた村が燃えているのが見えた。

 その光景を見ながら、考えるのはあの場に残ったアスナさんが率いる第二部隊の皆や村人たちのことだった。おそらく、ここにいる全員が彼らの生死を気にしているはずだ。

「皆、今は進もう。生かされた者は生かしてくれた者のためにも立ち止まることは許されない。それに月光十字軍は簡単には膝をつかない。必ず追いついてくると信じている」

 騎士がひとり欠けたことで広がる動揺。しかし、この絶望的な状況でも私たちを鼓舞してくれるのは、いつもシェイド様だった。

 再び皆の瞳に希望の光が差し込んだとき、両脇の草むらが震える。一気に緊張が走り、シェイド様は剣柄を握ると草むらをきつく見据えて声をあげた。

「隠れても無駄だ、命が惜しくば姿を現せ」

 この人はこんなにも勇ましく敵と対峙するのかと、シェイド様の気迫に仲間でさえ恐れおののく。この場に流れる空気を支配下においた王子の気迫に圧倒されていると、草むらから黒の軍服を来た男たちがわらわらと出てくる。その背には赤い太陽を背にした剣の刺繍が施されており、それを見た月光十字軍の皆の顔は警戒の色を増す。

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