異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「我ら王宮騎士団、ニドルフ王子の命により反乱軍を討伐するために参上した。苦しみたくなければ、剣を捨てて大人しく斬られることだ」

 黒い軍服の男たちが一斉に剣を抜き放ち、剣先をこちらに向けてきた。命を奪われるかもしれない恐怖によろけてしまう私の身体を近くにいたマルクが受け止めてくれた。

「大丈夫ですか」

 小声で心配そうに声をかけてくるマルクに、頷くのがやっとだった。マルクの腕の中で震えていると、私の前にシェイド様が立つ。

「ローズ、退けるぞ」

「もとよりそのつもりよ」

 不敵に笑ってローズさんもレイピアを抜き、肘を九十度に曲げると、肩から手首まで一直線になるように構える。その姿勢は美しく、不思議と見る者の目を惹きつけた。

「かかれ!」

 数十人ほどいる敵兵が一斉に襲い掛かってくると、シェイド様はぎりぎりまで敵を引きつけて一気に腰から抜剣した。

「うあああっ」

 多くの敵兵が悲鳴を上げて後ろに吹き飛び、次々と敵を薙ぎ倒す。その細身の身体のどこに、これほどまでの剛力を隠し持っているのだろう。それも軽々しくやってのけるので、怖気づいた敵兵はシェイド様に近づくことさえできなくなっている。

 対するローズさんは豪快に剣を振るうシェイド様とは違って、必要最小限の突くような動きだけで確実に敵の急所を狙っている。

 ふたりだけでも多くの敵兵を退けてはいるのだが、なにせ数が多すぎる。私たちはアスナさんと第二部隊の兵を欠いている状態なので、まともに動ける兵は数人だ。

 シェイド様とローズさんが捌ききれない敵兵は負傷兵たちが剣を抜いて攻防しているのだが、月光十字軍は圧倒的に数で不利だった。段々と押され始め、足や利き手を負傷している兵は抵抗する術もなく敵に無残に斬り捨てられていく。手当に駆け寄っても、心臓をひと突きにされていて即死である者がほとんどだった。

 それでも私は走った。地面に転がる負傷兵を見つけては、助かる見込みがありそうな者を後方へ下げて治療師と処置に当たる。

 しかし後方にも敵兵がやってきて、私たちは自分の身を守るので手一杯。ここで私たちにできることなど、皆無だった。

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