異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「私を助けたせいで、ミトさんは……。だから置いていけない、いけるわけないっ」

 嗚咽を堪えながら、子供のようにイヤイヤと首を横に振るだけの私をシェイド様はきつく抱きしめた。それに目を見開くと、また涙がこぼれ落ちる。

「俺はあなたを死なせたくない。だから、あなたの心がここに囚われていようと無理やりにでも連れていく」

 この力強い腕になら、私がどんなにミトさんの亡骸にしがみついても連れていかれてしまうだろうと思った。

 シェイド様は私の後頭部を撫でながら、優しく語りかけてくる。

「それにミトもあなたに生きてほしいと思ったから、最後まで兵として戦ったんだ。きみは彼に生かされた者として、その命を粗末に扱ってはいけない」

 そのひと言に目が覚めた気がした。

 ミトさんがなんのために、アスナさんがなんのために命を張ってくれたのかを思い出す。私たちを生かすためだ。ならば勝手に命を捨てることは、自分を助けてくれた者たちの命さえも踏みにじることになる。

 私は自分の心が落ち着いてくるのを感じて、彼の背に腕を回すと一瞬だけ勇気をもらうようにしがみつく。

「ありがとう、シェイド様」

 お礼を言ってそっと彼の胸から出ると、私は手の甲で涙を乱暴に拭う。

「あなたを死なせない、絶対に」

 シェイド様はそう言って、私の手を掴んで走り出す。その後ろに他の治療師や兵も続いた。

 山道を駆け下りながら、私がミトさんの死から立ち直れずにいた間にローズさんが敵を食い止めるため、第三部隊の兵とあの場に残ると言い出したのだとシェイド様が教えてくれた。  

 足を負傷していた兵は敵兵に真っ先に狙われてしまい、今ここにいるのは怪我しながらも動ける兵だけだった。

 多くの仲間を戦場に残して、小休憩を入れながら走り続けること一週間。私たちは朝日と共に、ミグナフタの国境を超えることに成功した。


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